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(物語)人生の相貌

「君は受験はどうする?」

先生が静かに尋ねる。

「私は、難関大に入れと親に言われているので、、」

この先生との二者面談は初めてだ。先生は優しい顔をする。

「結構。ところで、君は人生を何周していると思うかい?」

どういうことだろう。SF好きの先生だったっけ。

「1周目だと思いますけど。」

少し不安げに答えた私を先生は申し訳なさそうに笑う。

「はっはっは。その通りだね。しかし本質的に、2周以上しているという、そういう話をしよう。」

やっぱりこの先生はおかしい人なのか?先生は警戒する私を脇目に入れず話を続ける。

「職業柄いろんな人の親に会う機会がある。君の親は難関大に行けと言うそうだが、一方で何も言わない親もいる。この2人の親は何が違うと思う?」

私の親を批判しようとしているのだろうか。

「私の親は将来を見据えてくれていると思います。しかし、後者は無責任だと思います。」

「なるほどおもしろい。ただ、その考えは少し恣意的だね。君はそれを自覚しているね?」

ぎくっとする。正直そういう親を羨ましく思ってしまうところはある。何も言えない。

「実はね、どちらも同じ心情なんだ。つまり、自分の人生で悔いていること、あるいはそのおかげで今があると思っていることを子供に伝えたいという思いなんだ。どう思うかね?」

「は、はあ。」

「君の親は大学を出ているかね?」

「ええ。T大です。」

「すばらしい。きっと君の親は自分の人生に満足しているはずだ。そしてその理由は自分がT大に行ったことだと思っている。こういうことだ。だから何も言わない親というのは、受験に疲弊してしまった過去を持っているとか、学歴よりも大事にしていることがあるとか、様々考えられる。しかし少なくとも言えること、それはどちらの親も自分の人生の改善点を修正して、君の人生をより良くしようとしてくれているということだよ。もっと言うならば、親は君から見た祖父や祖母の人生を受け継いでいる。まさに、人生2周目や3周目なんだ。」

胸をつかれた思いだった。確かにその通りだ。

「だとしたら、その修正の先に最高の人生があるということでしょうか?」

先生は嬉しそうに微笑む。

「そこが肝だ。実は最高の人生は人による。これが真実なんだよ。」

「そんな曖昧じゃ不安です。明確な答えが欲しい。人生の手綱が欲しいんです。」

「確かに不安だね。ひとつ言うなら、親の言っていることは大きなヒントだ。物事をどう捉えるかは遺伝的な影響を受ける可能性が高いからね。これは私は認知に関する最大の問いだと思っていてね。つまり最高の人生とは何か、ということだ。」

よく分からないけど、でもたぶん分かった気がする。

「なんだか私、少し前向きになれた気がします。ありがとうございます。」

「いえいえ。しかし重要なのはこれが君の人生だということです。最後に決断するのは君ですよ。」

私は先生に軽く会釈をして、進路相談室を出る。突き抜ける廊下の先にある窓から、眩しい日の光がこもれでていた。