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(物語)サイゼリアの申し子 1話

「飯田様、ええと、大人1名様、いらっしゃいますか?」
「あ、はい僕です。」
僕は飯田たけし。サイゼリアに入り浸る男だ。思えば僕は物心ついた時からサイゼリアに、というか物心ついたとき、僕はサイゼリアにいた。今は地元の零細企業で営業として働いていて、業績はいまいち。職場から帰ったあとの1人のサイゼリアタイムだけが僕の癒しだ。ああ、はやくいつものが食べたい。
「ミラノ風ドリア2つと、あとプリンをください。」
「あ、ええと、申し訳ございません!本日プリンの在庫が切れておりまして、ティラミスなどおすすめです!」
ああ、なるほど。こういう日もないことはない。というか元気な店員さんだな。
「そうですか、ではデザートは結構です。」
「承知しました!」
プリンは仕方あるまい。大事な商談を明日に控え、気合を入れたかったものだが、そうか、プリンが食べられないのか。

———

「飯田様、1名様いらっしゃいますかー?」
「あ、はい僕です。」
今日の商談は大失敗だった。資料に円グラフを挿入したつもりが、それはすべてプリンの画像だった。
「ミラノ風ドリア2つと、あとプリンをください。」 
「ええと、申し訳ございません!本日プリンの在庫が切れておりまして、ティラミスなどおすすめです!」
僕は耳を疑った。耳を疑い、両耳をつまんだり叩いたりもした。
「プリンの在庫が切れているんですか?」
「はい。申し訳ございません!」
そんな馬鹿な。この僕の生涯38年間を通して、2日連続プリンの在庫が切れていたことなどただ一度もなかった。
「で、では結構です。」
「承知しました!ごゆっくりどうぞ!」
どこで問題が発生しているのか。卸売りか?生産工場か?それとも、、この店。
思いたって、あたりを見渡してみる。運悪くプリンのラストオーダーが数十分前であった可能性を探ってみる。しかし、プリンの受け皿のようなものはどのテーブルにも見受けられない。一度落ち着こう。椅子に深く座り込む。考えられるのは3つ。サイゼリアまでの生産ラインで問題が起きているのか、プリンを大量に食べる客が昨日今日に現れたのか、厨房でプリンが消費されているのか、、つまりバイトテロによるプリンパーティー。しかし、、
「お待たせしました!ミラノ風ドリアと、ミラノ風ドリアです!」
無垢な笑顔だ。こんな純粋な子が働いている職場で、バイトテロが起こるだろうか。
「ごゆっくりどうぞ!」
営業スマイルなのか?髪は結われているが、おそらく肩くらいまではある。厨房に戻った瞬間、結い紐を頭を左右にふらせながらほどいて、その長い髪をかきあげ、おもむろにタバコを吸い始めるのだろうか。そして、シャンパンタワーのように並べられたプリンにスプーンを伸ばす。ああそんな食べ方をしたらタワーが倒れてしまうよ。

———

「飯田様、1名様いらっしゃいますかー?」
「あ、はい僕です。」
プリン不足によるストレスは大きかった。印鑑だと思って日中何枚もの書類に押しつけていたのは、プッチンプリンだった。僕は解雇された。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
例の素直な子が接客をしてくれたが、なんだか妙に大人しい。嫌なことでもあったのだろうか。
「ええと、ミラノ風ドリア2つと、プリンはありますか?」
「申し訳ありません。ただいま在庫を切らしております。」
「ん?ええと、プリンをください。」
「ですから、ただいま在庫を切らしております。」
僕はもう、生きれない。視界が歪みはじめ、途端に強烈な吐き気に襲われた。つづいて頭をハンマーで何度も殴られるような頭痛を感じた。とてつもない痛みで僕はもうずっと、ただテーブル見つめて、動くことができなかった。そうして、次第にテーブルとの距離は近づいていった。
「え?え?!お客さん?!大丈夫ですか?!大丈夫ですか!!!!」



???「あらゆるプリンは、我々のもの、、、」
???「全てはあのお方のため、ですわ。」




つづく