(物語)デリヘル呼んだら君が来た 1話
僕は彼女ができたことがない。今年で29になる。いくつか恋は経験してきた。でも、うまくいかなかった。思えば僕は、人と違うことをやるのが好きだった。だから、彼女を作るということに関しても、一生彼女を作らない天然記念物みたいな人間になってみたいという思いさえあった。昔の友達と会うたびに惨めさと後悔が湧き上がるから、同窓会の類には出たことがない。変化が怖いんだ。僕はずっと硬直状態の人生だった。僕の中だけで、みんなを落とし込めておきたかった。まだ彼氏とか彼女がいた方がレアだったあの時代のまま。昔の僕は結構イケていたはずだ。そうだ。イケていたんだ。そのはずだ。どうしてこうなったのか。原因はなんだったのか。
「はい、よろしくお願いします。」
電話を切る。
いまの僕は、、、デリヘルを呼んでいた。
はっと思えば家の中は散らかっている。急いで片付けなければ。棚にいくつか本を抱えて整理していると、懐かしく高校の卒アルを見つけた。これは過去だ。でも、今とは切り離された過去。あー、髪整えなきゃ。あと布団の整理。
「ピンポーン」
しまった!なんの準備もできていない!
「は、はーい。ちょっと待って下さーい!」
なんかふと思う。僕の良くないところはこういうところなんじゃないのか?とりあえずいくつか見られるとマズそうなのもはカーテンの裏に隠しておく。ベットの下はもう入りきらない。
「ガチャ」
「こんにちは!にゃあにゃあパラダイスから来ました!ユキです!よろしくにゃん!!」
僕は目の前でビックバンを見たかのような驚きを感じた。確かに初めは1つの点だった。過去の記憶との類似点。そして膨張する記憶。そうだ。高校時代に好きだったあの子。ゆきのちゃんだ、、
「ゆきのちゃん、、、」
ゆきのちゃんもまた、ビックバンを見たのだろう。
「ユキ、、です。一応、、」
どうしようとかいう思考さえできない。どうしようもないのだ。髪は寝癖がついたままだし、顔も洗っていない。しかしそれ以上に、頭を駆け抜ける様々な感情を感じることで手一杯だった。
「チェ、チェンジで。」
「うん、あ、ええと、分かりましたにゃん、、、」
静かにドアを閉める。
「あーーーーー。」
とにかく髪の毛をぐちゃぐちゃにかき乱したい衝動に支配された。好きだった人とかそういうの関係なしに、変化を見てしまったことに僕はもうどうしようもないくらいに自分に懺悔したくなった。僕の記憶を記憶のままにしてやることができなかった。そもそもこんな真っ昼間からデリヘル呼ぶなんて僕はどうかしていた。ああムシャクシャする。玄関で思わずしゃがみ込む。過去の時代が、僕の夢が現実の延長線上にあったことに、自覚せざるを得なかったのだ。ゆきのちゃんは、大人になっていた。そのとき、ドアノブが動いた。少しだけドアを開けて、顔を覗かせるゆきのちゃんがいた。ん?ゆきのちゃん?どうして?
「君の目、違うわ。とても気になっていたの。確かに顔は似てる、でも、、」
なんだ?なにが言いたいんだ?ていうかだいぶ今の僕の姿は惨めだ。気づいたはいいものの、整えるタイミングがわからない。ゆきのちゃんは少し悩んでこういった。
「ちょっと話さない?」
つづく