いろいろ書く

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(玄人向け物語)「言語が見せる世界」より

「認知意味論とはこのように人による認知の違いを疑ったものである。ところで、この認知の違いは各々の事物に対応する個別したものではない。これらが無意識下に統合され、我々の世界は構成されている。つまり、元来人間とは孤独であり、またある意味君らは、君らの見えている世界の創造主とも言えるわけであり、、、」 

あーだるいわ。僕は今年からキラキラの大学生。なんだけども、哲学の授業をとったのは間違いだったな。さとみちゃんを追っかけて取ってみたけど、なんで彼女はこんなことに興味が湧くのだろう。そんな君に僕は興味が湧く。寝てもいいか。この教授は相当老いぼれてるから、おそらく教室後方にいる僕には焦点が合わない。机に突っ伏してみる。教授のしおれた声だけが聞こえる。ちょうどいいノイズだ。

「ひあああああぁぁぁぁー!!」

驚いて顔を上げると、教授が燃えていた。え?なんだ?!そんな状況で、周囲の人間は熱心に授業を聞いている。 

「すなわち認知意味論は主観の問題であり、客観的世界を基盤とした人類のあらゆる試みは初めから破綻していたと主張する学説もあり、、、」

教授は燃えたまま授業をしていた。理解が追いつかない。これは夢か?前方に座っていたさとみちゃんが立ち上がり僕の方に近づいてくる。どうしたのだろう。そして僕は驚いた。さとみちゃんは服を着ていなかった。さとみちゃんが口を開く。 

「君は現実を見たい?」

僕は怖くなった。

「知らない!こんなの知らない!夢なら早く覚めろ!!」

すると今度は学生全員が燃え始めた。

隣のトオルがつぶやく。

「現実など存在しないよ。現実など一般的解釈を軸としたメリーゴーランドのようなもの。」 

さとみちゃんが言う。

「これが真実。君は認知に縛られていた。通念によって、視覚も聴覚もなにもかも君は支配されていたのよ。」

僕はもう耐えられず、出口に向かって走る。思い切りドアを開く。眩しい。目が光に慣れない。いや違う、何も見えていないんだ。あたりを見渡すと、世界は真っ白で何もなかった。僕は膝から崩れ落ちた。

「頼む。助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ、、、!!!!」

僕は目が覚めた。そこは教室だった、相変わらず教授は退屈な話をしている。そうだ。これが現実、これが現実だよ。ああ心地がいい。