いろいろ書く

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(物語)トンデモ科学部の先輩 3

「文化祭?」
「はい。科学部もなんかやりましょうよ。」
「省略するな。論理論考実験科学部だ。悪いが私は今忙しい。宇宙の膨張と今後の動きをエンタルピーの観点から考察しているんだ。君に感想を聞きたい。ゆえに聞きたまえ。エンタルピー、エントロピーから考えて宇宙が膨張することが非常によくわかるのだが、どうやらその後収束し始めるのがいま主流の説らしい。つまりエントロピーに関しては疑いようもないのだが、エンタルピーに関しては宇宙空間における私の仮説が間違っていることとなる。あるいは別の要因があるかもしれない。それは例えばダークマターにはじまる諸物質の、、」
先輩はずっとこんな調子だ。スイッチが入るとずっと喋り続ける。最初は色々妨害を試したものの、スマホのライトで先輩の顔面を照射しても喋りつづけていたことがあってもう諦めた。私はあれから相変わらず友達が1人もできないけど、実験の手伝いは結構楽しくて、そこそこ充実している。
「マジックとかどうですか?科学の力でなんかすごいことやってくださいよ。」
「マジック?ほう。」
「例えば、人が消えるとか、、」
「人が消える、、なるほど。」
「え、もしかしてできるんですか?」
「歯磨き粉はフッ化ナトリウムを含んでいるね。これを水に溶かすと、電離してフッ化水素水酸化ナトリウムができる。」
フッ化水素、、それってかなり危険なやつじゃないんですか?なんでそんなもの、、」
「まず人を密室にいれる。部屋の中にカメラを置いて、中継すればいいだろう。そこでさっき作ったものを持ってきて、室温を調節しよう。フッ化水素の沸点は20度くらいだ。それ以上を維持する。君、ちゃんとメモしてるかい?」
「え、ああメモします。」
「できる限りたくさん同じことをやるんだ。通常の水素濃度だとフッ化水素がそもそもできないからね。さあそしてフッ化水素の濃度も上がってくるだろう。そこで、室温を一気に20度以下に下げる。高濃度のフッ化水素は一気に液体となり、人の表皮にくっつき、その人間はたちまち溶けて消えるだろう。」
「おいおいおーい。メモして損しました。あーあ、こんなんだからデタラメ科学部って言われるんですよ、、あれトンデモだっけ?もうどっちでもいっか、、」
「ん?なんて?」
「なんでもありません。そろそろ真面目に考えてください。」
「私はいつも真面目だよ。さっさとじゃんけんでもしようか。」
「へ?」
「どちらが消えるか。」
「、、結構男気あるんですね。私に押し付けるのかと。」
「志願するのか。よろしい。」
「してないです。」
「では、、、君の持っているらしい金の力でなんかやってみたらどうだ。」
「なにをやるんですか。」
スペースシャトルを作って宇宙体験ができる出し物とか。」
「九条財閥って結構威厳ある方なんですけどね、それやったら1発で崩壊します。」
「そうか、、」
「あ、でもプラネタリウムなら作れるかも。」
「、、!それなら任せろ。天井はいらない。私が雲を発生させよう。そこに投射するんだ。そのくらいの光の強さ、なんとかなるだろう?」
「ええと、、日中って明るいですよね、?そこに光出してもわからなくないですか?」
「無論夜にやる。」
「普通に星空見たらいいじゃないですか、、、」
「ううん、、まあそうだな。ああしかし、ど田舎でもない限り天然の星は見えづらいだろう。その点迫力のあるプラネタリウムができるぞ。」
「たしかに、、いやいや、文化祭は日中やるので。」
「そのくらいなんとかしろ。金あるんだろ。」
「いやいや、、うーん、、まあ、これが出来なかったら人溶かすことになりますもんね。分かりました。やってみます。」




「科学部結構やるわねー。」
「あの変人も、この学校にいるだけそこそこの財力はあるのかしら。」
「いやそれがね、、九条家のお嬢様、科学部入ったんだって、、」
「ええぇー!!!」
「それで、お母様の話によるとね、九条財閥からお金出してこの出し物作ったんだって。猛暑対策で文化祭を夜中にやるとか理事長が急に言い出したのも、これをやるためだったりして、、」
「いやいやちょっと待ってよ。九条家のお嬢様でしょ?!そんなお方がなんであんな部活に、、え、なんか、幻滅した。」
聞こえてるわよ。いつもいつも。
「お前人気だな。」
「うるさい。」
「彼らはなにも分かってないな。なにか言ってやりたい。」
「えっ、、?」
「噂なんかより星を見た方が楽しい。」
「ああ、、そうですよね。」
「なんだ?」
「いやなんでもないですほんとに。」
「変なやつだ。」
お前が言うな。
「結構かっこいいところあるんですねー?」
「どれだ?ペルセウス座か?」
「ええそうです。」




次回「タピオカ!」
お楽しみに。






(作品上に登場する理論はトンデモ科学です)