いろいろ書く

毎週日曜日更新

(物語)地獄谷温泉からの卒業

「あぁ、いい湯だな。日本の湯の名所はあらかた訪れたが、やはり地獄谷は別格だよ。そうは思わんか?」
顔を赤くした猿に話しかけてみる。この猿ときたら、さっきからひょうひょうとした顔でいかにもふらふらしていそうな面立ちをしているくせに、私ばかり見て、その目をさっきから離そうとしない。失礼なやつだ。私はお前の仲間ではないのだ。人間様だぞこのやろう。
「ウキッ」
急に鋭く鳴くものだから、ちょっとびっくりした。すぐさま元の体制にもどり、やはり私は毅然とした態度でこの猿を見つめ返す。先ほどの私の衝撃によって生まれた波紋がゆっくり広がる羞恥心に耐えられない。こんな威張っているというのに、ほころびが隠せない。裸の王様の気持ちがわかる。しかしだねこの猿。これも時間が解決する。いずれ波紋は消え、再び静寂が訪れる。そうなれば、分かっているね?五分五分に戻るのさ。猿は大きく口を開けて気持ち良さそうな顔をして、そしてすぐ閉じた。あくびだ。なるほどこの猿め、すでに私は一本取られていると言いたいのかね。つまり波紋が消えようとも、私がこの猿に一度負けたという事実は消えない。ん?つまりだからこそ、この私の幼稚さを受け入れて、仕方ないね、君はチャイルドなのだから、という嘲笑としてのあくびであったというわけか。この猿、生意気。ならば私も。
「ふあぁぁぁ、、うぁぁ、、ふぅぅぅ。」
どうだ、この猿め。これ以上ない気持ちの良いあくびだと思ったろう。その通りだ私はお前を完封できてとても気持ちいい。私の勝ちだ。ん、なんだね、その目は。ケチでもつける気か。敗者復活などあるわけなかろう。温室育ちのアホ猿め。ぬくぬくしやがって。この人間様が勝負を通してお前を啓蒙してやったのだ。だいたいなぜお前はそんな無謀な勝負を、、
「ウキッ」
びくっ。


今週のお題