(物語)トンデモ科学部の先輩 15
「おい九条、アーニャってなんだ?」
「あ?」
「当たりが強いぞ。」
「アーニャっていうのは、流行っている漫画のキャラクターですよ。幼い女の子で、その可愛らしさから人気です。私は可愛いとは思いませんけど。」
「なるほど、サブカルの類か。」
今日の九条はなんだか不機嫌だ。女の感情は行ったり来たりで大変だな。
「君はそのアーニャというキャラクターが嫌いなのか?」
「ええ、まあ。」
「なぜだ。」
「作者が中年の男性の方なんです。だからいくらアーニャが幼女的に可愛い仕草や言動をしようと、その操作をしているのはおじさんであるという明らかな事実が認識の邪魔をするんですよ。」
「ほう、君にも科学的な姿勢が身についてきたようだ。重要なことは物事の裏にある本質だということ、その本質というものは具体性のかき集めとして、、」
「アーニャが憎い。」
とんでもない形相でテーブルの上の消しカスをコネコネしながら九条がボソッと声に出した。
「そこまで恨まなくてもいいとは思うが。」
「私も可愛いって言われたい。」
なるほどこれが本音か。
「しかし、君はもう年増しだ。」
「は?」
今日は本当に怖い。適当に実験失敗させて早く帰ろうと思う。
「中身おじさんであんなにチヤホヤされるなら、中身JKの私がアーニャみたいなことしたらもっとチヤホヤされていいわけですよね。」
「それは論理的ではないな。フィクションだから成立するだけだ。おそらく、著者は可愛いとは言われていないだろう?君がなにか可愛いものを創作すれば、周囲はそれを可愛いと言ってくれるだろうね。」
しまった、女の話を論破した挙句解決策を提示してしまった。女の話は解決しない方が良いとこの前科学誌で読んだばかりだったのに。
「うざ。」
言わんこっちゃない。
「かわいいよ。九条は。」
フォローのつもり、、だが九条はただぼうっと私の方を見つめてくるばかりである。
「な、なんですか先輩急に、、」
モジモジして頬を赤らめはじめる。まったく情緒不安定な人間である。
「わたし、、ピーナッツ好き、、」
「ん?」
「ほら、、アーニャの真似してるんだから、言うことあるでしょ?」
「ん?えーっと、かわいい?」
「ピーナッツ好き、、」
ますます頬を赤らめる。
「顔が赤いぞ、茹で上がったタコみたいだ。」
その日、九条は実験器具のいくつかを粉砕して帰っていった。