いろいろ書く

毎週日曜日更新

(物語)美幸ちゃん 10(終)

美幸「パスタ旅行に行こうとは思ってたけど、、、勢いのまま九州まで来くることはなかったよね、、」
春先だというのにかなり暑い。時折りの風が本当にありがたいわ。
美幸「すみませーん!ナポリタン・ボナパルトって店探してるんですけど、場所分かりますか?」
駅員「ああ、この道をまっすぐ行けばいいよ。大きい建物だから、すぐにわかるはずだよ。ねえちゃん勘がいいね、あの店は至高だよ。」
美幸「ありがとうございます!東京にまでその名を轟かした伝説の名店、ですからね!お噂はかねがね。」
駅員「ははは!なんだい東京から来たのかい!そりゃすごい!またなにか分からないことがあったらなんでも私に聞きなさい。私の辞書にはパスタの文字しかない!ボーノ!」
美幸「私の辞書にはパスタの文字しかない!ボーノ!!では、行ってきます!」




美幸「なんじゃこりゃ!!とても九州の建物とは思えないわ!まるでパスタのデパートよ!」
店員「私の辞書にはパスタの文字しかない。ボーノ!ようこそナポリタン・ボナパルトへ!!」
すごい、、至る所にパスタの食品サンプルがある。エントランスを抜けたひらけた場所ですぐに私を出迎えたのは、横5m、高さ7mほどの大きなナポリタンの食品サンプルだった。よくこの大きなフォークを支えられているものだと感服する。それに、ちょうどUSJの地球儀みたいに、回っている。
美幸「さすがの名店、、」
店員「当店自慢のオブジェクトでございます。あらゆる方面から当店のナポリタンを見ていただくことで、裏表なく、ごまかしなく、常に我々は最高のパスタを提供させて頂いていることを証明するものです。このオブジェクトを見るたびに、まったく気が引き締まる思いです。」
美幸「なるほど。素晴らしいです。」
店員「では、本堂の方へ。」
美幸「本堂、、?」




私は目を疑った。
美幸「これは、、パスタ千手観音!!!」
店員「さようでございます。御身はこの地に降り立ったとの言い伝えがございます。諸説ありますが、どこよりも我々九州人が信奉している自負があります。」
美幸「なんてこと、、奈良県のカルボ・ナーラに喧嘩を売るつもり、、?!」
店員「ははは!そうなりますかね。しかし我々は逃げも隠れもしません。この大きな建物で待ち構えていますよ。」
美幸「、、参ったわ。今後のパスタ業界、一体どうなるのかしら、、、それじゃあそろそろ、ナポリタンをいただこうかしら。」
店員「承知しました。それではレストランへ向かいましょう。」




店員「こちらが当店自慢のナポリタンです。ごゆっくりどうぞ。」
美幸「ありがとうございます。」
なによ、この艶やかさ、、ナポリタンよね、これナポリタンなのよね。美しすぎる。B級グルメの域を完全に逸脱してる。赤みがかった麺に映えるピーマン。俗っぽさがまったく感じられない香ばしいケチャップの匂い。それに、、オン卵、、?!オン卵なのね!!卵ナポリタンなんて聞いたことない、、面白いわ。
美幸「いただきます、、!」
これは、、!!ももちもちとした食感を残しつつ、それでいてこの歯切れの良さを維持してて、卵がこれを取り持っているのかしら、、でもそれでもなんでもなく、なによりも、なによりも、、美味、、!!ああ、恍惚とせざるを得ない!
美幸「ふふっ、、ふふふ、、、はははは!!あはははは!!!ばからしい、、!」
私はなにを思い悩んでいたのかしら。旅行を終えたら三途の川を渡ろうなんて思ってたけど、、なによ、、恋愛なんてちっぽけなものじゃない。
美幸「(もぐもぐ)」
もう全部だめだと思ってた。なにもかも。でも違うんだね。ひとりで食べるパスタも美味しい。健二がいなくたって、辰雄がいなくたって、、大丈夫。
美幸「(もぐもぐ)」
辰雄は私を助けるために死んじゃった。だから、私まで死ぬ必要はない。辰雄の分まで、私生きてみるよ。健二の分まで、パスタたくさん食べる。たくさん食べるの。
美幸「(もぐもぐ)」
店員「(実に多様なお客様がいらっしゃる。パスタ好き、カップル、老夫婦、はたまた訳あり、失恋、絶望した方々。まことにさまざま。しかし、店を出る頃には、皆一様に笑顔になられる。あのお方もまた、、、ああ綺麗な涙をお流しになって、、)」
美幸「う、、うっ、、、健二の言う通りかもね。誰しも罪人で、、背負っていくしかない、、でもね、、でも、、たまには背負ってるものおろして、休憩してもいいって、、そう思うの、、」
ナポリタン、ちょっと塩辛くなっちゃった。でも、美味しい。これが私のナポリタン・ボナパルトの味。
美幸「みんな、、罪を許し合って生きていくの、、、たぶん、そうやって紛らわして、支え合って、感謝しあって、、、、ありがとう、健二、辰雄、あと健二の彼女も、、」




店員「私の辞書にはパスタの文字しかない。ボーノ!ご来店、ありがとうございましたー!!!」
美幸「こちらこそ!美味しいナポリタンをありがとうございました!!」
ふと、そういや辞書にパスタしかなかったらその決まり文句は言えないのではないかと疑念がよぎったけれど、そんな不安は心地の良い春の風に飛ばされていった。
美幸「あら、、?!もうこんな時間?!日帰りで九州はやっぱりきつかったかしら!あと2軒は回ろうと思ってたけど、、仕方ない。とりあえず飛行機に間に合わせなきゃ!!」




駅員「ああ!ねえちゃん、あの店美味しかったろう!」
美幸「はい美味しかったです!もう帰るけどまた絶対来ます!それでは急いでいるので!!」
駅員「ああちょっと!東京に帰るんだったら逆だよ!!ねえちゃん?!!ちょっと!!!」














美幸「はぁぁぁーー。家って落ち着くわね。」
あのナポリタン、家で作れないかしら、、お!卵あるじゃない!




美幸「よし、できたわ。あとは卵をのせるだけっと。」
コンコン
グチャ











おわり