(物語)トンデモ科学部の先輩 13
実験机の隣りには先輩がいて、いつものようになにやら煙を出している。この白煙はどうやらわざとで、気体発生が視覚的にわかる安全策らしい。しかしそんなことはどうでもいい。テストが近づいてきたのだ。
「あぁ、、テストやだー!!地球滅亡しろー!」
「地球滅亡?」
「あ、言ってないです。」
「テストはどうでもいいが地球滅亡の方法なら考えがつく。まず水素は知っているね?」
はじまった。
「水素は非常に軽いんだ。地球の重力ではとても抑えきれない。よって宇宙空間に放出されているのだが、では地球の重力を一時的に強くするとしよう。なんらかの衝撃を加えて自転を停止させて遠心力をなくせば十分可能だろう。すると水素は宇宙空間から地表に引き戻される。さあどうなるか。地表には火の気などいくらでもある。つまり酸素と火と、過剰な水素、これによって水素爆発が起こるんだ。地球の上空で衝撃波が発生、そして地球に降り注ぐ。生物は絶滅、大地も裂かれ壊滅。地球の滅亡だ。いや実はいくつか障壁があるのだが、例えばそこまで水素を引き戻すのはかなり難しい。これは私が思うに酸素や窒素の密度を上げることで、、」
こんな風に先輩の話を聞き流して窓の外を見ていると、なんだかふと思う。先輩はいつまで先輩でいてくれるんだろう。この関係がいつか呆気なく無くなる瞬間がきっとあって、、、そのとき私は何を思っているんだろう。先輩は私のことどう思ってくれるんだろう。
「九条?聞いているのか。聞いていないならもう一度説明するぞ。ヘリウムを利用して人類を変声して社会交流全てを混乱させ崩壊させるという、、、九条?なんで泣いているんだ?」
「え?」
頬をつたう感覚がする。なんだろう、最近涙脆くなったのかな。
「なんでもありません、大丈夫ですよ。実験して下さい。こっちはテスト勉強やらなきゃいけないので。」
「何を言っているんだ?君は泣いているんだぞ?そこに意味がないわけないだろう。」
「なんでもないです。」
「いいか、こっちは真剣なんだ。実験中に泣いてでもみろ、成分中のミネラルで結果が変わったらどうするつもりなんだ。」
「実験ばっかり、、」
「もちろん君のことも心配している。こんな状態では相互的に不幸だ。違うか?」
「、、不幸なんて言い方はないと思います。先輩ってどうしてそんなに空気読めないんですか。いや、本当は分かってるんですか?わざとなんですか?」
「言ってる意味がわからないが。」
「私がなぜ泣いているのか、分かってるんじゃないんですか?」
「いくつか想像はつくよ。」
「、、!!だったらなんで!」
「君の口から聞きたいんだ。もし私が誤って解釈したらどうする?本人から聞くのが1番正確なんだ。」
「先輩ってロボットみたい、、!!人の心が分かっても、どう扱うべきかは分からない、そんな人間なのよ先輩は!」
先輩は大きく目を開けて、そして寂しげにうつむいた。
「、、」
そろそろ沈黙に耐えられない。先輩の目を見ようとしたとき、、その瞬間何が起きたのか、私には理解が追いつかなかった。
次回「先輩と後輩」